やさしい公共空間設計

公共空間の情報提供デジタル化:多言語・ユニバーサルデザイン対応の設計ポイント

Tags: デジタルサイネージ, 多言語化, ユニバーサルデザイン, 公共空間設計, 情報提供システム

はじめに

近年の技術進展に伴い、公共空間における情報提供のあり方は大きく変化しています。これまでの印刷物や固定サインに加え、デジタルサイネージ、インタラクティブ端末、スマートフォン連携など、多様なデジタルメディアが活用されるようになりました。これらのデジタルシステムを設計する際には、単に情報を表示するだけでなく、多様な利用者、特に言語や能力に多様性を持つ人々が円滑に情報を取得できるよう、多言語化とユニバーサルデザイン(UD)への配慮が不可欠となります。本記事では、公共空間の情報提供デジタル化における多言語・UD対応の設計ポイントについて解説いたします。

公共空間におけるデジタル情報提供システムの役割

公共空間における情報提供システムは、利用者が目的地へ円滑に移動し、施設やサービスを安全かつ快適に利用するために極めて重要な役割を担っています。デジタルシステムは、情報のリアルタイム更新、インタラクティブな操作性、多様なメディア形式(テキスト、画像、動画、音声)による伝達といった利点を持ち、静的な情報伝達手段では難しかったきめ細やかな対応を可能にします。

これにより、以下のようなニーズへの対応が期待されます。

これらの目的を達成するためには、計画段階から多言語化とUDの視点を取り入れた設計が求められます。

多言語対応における設計ポイント

デジタルシステムにおける多言語対応は、単に情報を翻訳して表示する以上の考慮が必要です。

1. 対応言語の選定と品質

対象となる公共空間の特性(例:国際空港、主要駅、観光地、地域住民向け施設)に応じて、対応すべき言語を適切に選定することが重要です。単に多数の言語に対応すれば良いというものではなく、利用頻度や必要性の高い言語を優先的に整備し、翻訳の品質を確保することが信頼性につながります。専門家による翻訳や、AI翻訳の結果を人間が校正するなどのプロセスを取り入れることが望まれます。

2. 言語切り替え機能

利用者が容易に言語を切り替えられるインターフェース設計が必要です。多くのデジタルサイネージやウェブサイトでは、画面上部のプルダウンメニューや国旗アイコンなどが用いられますが、アイコンの意味が直感的に理解できるか、操作箇所が分かりやすいかといったUDの視点も合わせて考慮します。スマートフォンの設定言語に自動的に合わせて表示する機能も有効です。

3. コンテンツのローカライズ

言語だけでなく、日付形式、時刻表示、単位(メートル法など)、地名表記といった地域ごとの慣習や基準に合わせたローカライズも行うことで、利用者はよりスムーズに情報を理解できます。文化的な背景に配慮したアイコンや画像選定も重要です。

ユニバーサルデザイン対応における設計ポイント

デジタルシステムは、その柔軟性からUD対応の可能性を大きく広げます。視覚、聴覚、認知、操作性など、多様な側面に配慮した設計が求められます。

1. 視覚情報への配慮

2. 聴覚情報への配慮

音声ガイド機能は、視覚障害者や弱視者にとって重要な情報取得手段です。画面表示テキストの読み上げ機能、重要な情報に関する音声アナウンスなどを多言語で提供することで、アクセス性を高めます。音量調整機能や、周囲の騒音レベルに応じた音量自動調整機能も有効です。

3. 操作性への配慮

4. 認知への配慮

情報の内容を分かりやすく伝えるための工夫が必要です。専門用語を避け、平易な言葉を使用します。視覚的な情報(アイコン、ピクトグラム、短い動画など)を効果的に活用し、情報を補完します。複雑な手順はステップごとに分解して表示するなど、利用者の認知負荷を軽減する設計が求められます。

関連法規とガイドライン、認証制度

公共空間の設計においては、国内外の様々な法規やガイドライン、認証制度が存在します。例えば、バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)や、UDに関する JIS 規格、海外のアクセシビリティ基準(WCAGなど)などが挙げられます。これらの基準を参照し、設計に取り入れることは、単に法的要件を満たすだけでなく、質の高いUD対応を実現するために不可欠です。また、一部の認証制度は、設計の客観的な評価軸となり得ます。

導入事例の重要性

デジタル情報提供システムの多言語・UD対応を計画する上で、国内外の先進的な導入事例を参考にすることは大変有効です。どのような技術が活用されているか、どのようなデザインが採用されているか、利用者の評価はどうかといった点を分析することで、自らの設計に活かせる具体的なヒントや課題が見えてきます。様々な公共空間における事例に触れることで、多様なニーズへの対応方法や、予期せぬ課題への対策について学ぶことができます。

結論

公共空間における情報提供のデジタル化は、多言語化とユニバーサルデザインへの対応を一体的に進めることで、その真価を発揮します。本記事で挙げた設計ポイントは、デジタルシステムが全ての利用者にとってアクセスしやすく、有益な情報源となるための基本的な考え方を示しています。技術の進化は今後も続きますが、最も重要なのは、常に多様な利用者の視点に立ち、彼らが何を必要としているのか、どのようにすればより円滑に情報を受け取れるのかを深く理解し、設計に反映させていくことです。継続的な評価と改善を通じて、より包括的で質の高い公共空間の情報環境を整備していくことが求められます。